不眠症

不眠症:薬を使わず不眠症を治療しましょう

ご自身の睡眠に満足していますか?

「睡眠薬を長期使用しているが、いつか内服をやめたい!けれど、本当にやめられるの?」
「睡眠薬なしで寝つこうとするけれど、何時間も布団の中で悶々と眠気が訪れるのを待ってしまう」
「この症状はどうしたら解消できるの?薬を飲み続けるしか方法はないの?」

そんな眠りにまつわるお悩みを抱えておられる方、いらっしゃいませんか?

最近の研究によると、眠りに対する認識や生活スタイルを意識的に変えることが快適な睡眠に効果があることが報告されています。
当院では、認知行動療法*により、睡眠薬を使用しない不眠症の改善をお手伝いしています。

睡眠に関するお考えや生活スタイルを当院スタッフと一緒に見直し、睡眠環境やリズムを整えることで安らかな眠りを手にいれませんか?

特に赤ちゃんへの影響が心配で、睡眠薬を使いたくない妊婦様や母乳育児中のお母様。
長年薬を使用しているが、夜間トイレに行く時に足元がふらふらするので薬を減らしたいご高齢の皆様。
このようなご心配の他、日常の眠りでお困りの方は是非、一度御相談下さい。

* Ediger, J. D. and Carney, C. E.: Overcoming insomnia: A cognitive-behavioral therapy approach: Therapist guide. 北村俊則(監訳),坂田昌嗣(訳)不眠症の認知行動療法:治療者向けマニュアル. 日本評論社, 東京, 2009 に準拠した治療を行っております。

不眠症の悪循環と認知行動療法の基礎

不眠症治療の種明かし
睡眠は体の1日のリズムに従って発生します。このリズムが崩れると不眠になりやすいのです。海外旅行に行って寝られない、あるいは日中眠気が取れないのはこのためです。不眠の人の睡眠パターンを見ると、床に就く時刻と朝、床から出る時刻が日によって大きく変わっていることに気が付きます。寝られないと、翌朝、ずっと布団の中にいて「睡眠時間を取り返そう」とするため、こうしたことがよく起こります。そこで、不眠治療の第一歩は、あなたの睡眠・覚醒のリズムを観察することです。添付の睡眠日誌をつけてみてください。普段気が付いていないあなたの睡眠の「癖」が見えるかもしれません。

不眠症治療用シート
[1]睡眠日誌 PDFはこちら
[2]心配の枠づけ PDFはこちら
[3]思考記録表 PDFはこちら

不眠症の認知行動療法における行動的治療計画
ルール1:基準となる起床時刻を決める
ルール2:眠るときのみ寝床(ふとん・ベッド)を使う
ルール3:寝られなければ床から出る
ルール4:寝床で心配ごとや今後の計画などをしない
ルール5:日中の昼寝を避ける
ルール6:床の中で過剰に長い時間を過ごすことを避ける

実際の治療経過を見てみましょう PDFはこちら

抗不安薬や睡眠薬が高齢者の股関節骨折のリスクを上げる

ノルウェーで60歳以上の人を対象に全国規模で行われた、抗不安薬や睡眠薬を使用している高齢者は、股関節骨折の発生リスクが高いことを示した論文を紹介します。

Bakken, M. S., Engeland, A., Engesater, L. B., Ranhoff, A. H., hunskaar, S., & Ruths, S. (2014). Risk of hip fracture among older people using anxiolytic and hypnotic drugs: A nationwide prospective cohort study. European Journal of Clinical Pharmacology, 70, 873-880.
抗不安薬や睡眠薬を使用中の高齢者での、股関節骨折のリスク: 全国規模での前向き観察研究

研究背景・目的

股関節骨折は、高齢者ではかなり発生頻度が高く、疾病率や死亡率に大きくかかわっている。そのため、股関節骨折に関わるリスク要因を特定し、リスクとなる要因を減らすことが根本的に重要である。
抗不安薬や睡眠薬は、鎮静作用、バランス感覚の低下、認知の低下を引き起こすため、転倒のリスクが増える。その一方で、抗不安薬や睡眠薬の使用は、年齢と共に増加する。
研究は、ノルウェーの60歳以上の人を対象に、抗不安薬や睡眠薬の使用と、股関節骨折の関係を2005年から2010年の間に追跡調査し、股関節骨折のリスク要因を検討することを目的に行われた。

高齢者における睡眠薬と股関節骨折

研究方法

1945年以前(調査当時60歳以上)に出生した、ノルウェー在住の人を対象に、2005年から2010年の6年間の追跡調査を行った。

データは、国が管理している、3つのデータベース
(1) NorPD:個人の抗不安薬・睡眠薬の使用、
(2) ノルウェー 股関節骨折登録:股関節骨折の発生、
(3) 住民登録:年齢、性別、死亡日、移住日
から収集した。

調査対象とした薬物は、次のものである。
抗不安薬:ベンゾジアゼピン誘導体(ジアゼパム、オキサゼパム、アルプラゾラム)、ヒドロキシジン
睡眠薬:ベンゾジアゼピン誘導体 (ニトラゼパム、フルニトラゼパム、ミダゾラム)、ベンゾジアゼピン関連(ゾピクロン、ゾルヒデム)、メラトニン受容体作動薬 (メラトニン)

研究結果

906,422 名、平均年齢 72.8(標準偏差8.9)歳の対象者を平均 5.2 年間追跡調査した結果、23%の人が1度は抗不安薬を使っていた、30%の人が1度は睡眠薬を使っていた。
股関節骨折は、4.4%(39,938名)に発生し、そのうち、2009名が抗不安薬内服、6583名が睡眠薬内服、675名は抗不安薬・睡眠薬の双方を使用していた。
性別ごとでは、男性の場合、抗不安薬を使用すると、使用しない場合と比べて 1.6倍(95%信頼区間1.4-1.7)股関節骨折の発生が高くなる。睡眠薬を使用すると 1.3倍(95%信頼区間1.2-1.3)股関節骨折の発生が高くなる。女性の場合は、抗不安薬を使用すると 1.4倍(95%信頼区間 1.4-1.5)股関節骨折の発生が高くなる。睡眠薬を内服すると 1.1倍(95%信頼区間 1.1-1.2)股関節骨折の発生が高くなる。
薬の作用別では、抗不安薬を使用している人で、1.4倍(95%信頼区間1.4-1.5)股関節骨折の発生が高まる。短期作用型のベンゾジアゼピン系の薬を使用していると、1.5倍(95%信頼区間 1.4-1.6)股関節骨折の発生が高くなる。長期作用型のベンゾジアゼピン系の薬を使用していると、1.2倍(95%信頼区間 1.2-1.3)股関節骨折の発生が高くなる。
睡眠薬を内服した人で、かつ股関節骨折が起こった 3,223名で、股関節骨折が発生した時間帯は、昼間は 1.1倍(95%信頼区間 1.1-1.2)、夜間は 1.3倍(95%信頼区間 1.2-1.4)と、夜間の発生率の方が高い。

結論

これまで、高齢者にとって、害が少ないと考えられていた、短期作用型ベンゾジアゼピンや、z睡眠薬の使用が、股関節骨折のリスクを高めることが明らかとなった。
高齢者の不安障害や不眠症の治療には、注意が必要で、非薬物的な治療を優先し、長期的な薬物の使用者では、使用量を減らす働きかけをすべきである。

ポリファーマシーについて

先日、「週刊 医学会新聞」(医学書院発行)の記事で、“ポリファーマシー”に関する特集がされていました。

ポリファーマシーとは一体何でしょうか?

ポリファーマシーとは、多剤併用とも呼ばれます。具体的に何錠以上の薬を使用することがポリファーマシーに該当するかどうかという定義はないようですが、昨今増加している複数の慢性疾患合併から、特に高齢者の中でポリファーマシーが生じやすくなっています。

ポリファーマシーについて、日本では今井らによって、「日本版ビアーズ基準」というものが作成されています。

ここで、日本版ビアーズ基準とは何かということですが、高齢者には処方を避けるのが望ましいと判断される代表的な薬剤が掲載された一覧表のことをいいます (今井, 2011)。

日本版ビアーズは、具体的に以下の2つから構成されています。

  1. 高齢者を不必要なリスクにさらし、それよりも安全性が高い代替薬剤がある、あるいは効果がないなどの理由から、65歳以上の高齢患者において「常に使用を避けるのが望ましい」薬剤または薬剤クラス
  2. 65歳以上の高齢者において「特定の病状がある場合に使用を避けるのが望ましい」薬剤または薬剤クラス
    *リストアップされている薬剤は、潜在的な有害事象あるいは、有害になる可能性があるものを挙げています。

日本版ビアーズ基準の中で、リストアップされている薬の中に睡眠薬があります。

具体的には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(長時間型・中間型)が挙げられ、その問題点は高齢者における半減期がきわめて長く、長時間にわたり鎮静作用を示すため、転倒および骨折の頻度が高くなることであると言われています。
そのため、代替として中から短時間型ベンゾジアゼピンの使用が望ましいとされています。

不眠の治療には、①薬物的、②認知行動療法の2パターンがあると言われています。

そのうち、薬物による治療は短期的な使用に効果があるとされて、試用期間とともに効果が低下すると言われています。その一方で、不眠の認知行動療法は慢性的な不眠症に効果があるとされています (Williams, et al., 2013)。

慢性的な不眠症にお悩みの方は、治療方法を睡眠薬から認知行動療法に思い切って変更してみませんか?